水にこだわる 4
ろ過装置を追加すれば、工場内を流れる液体の導管も追加しなければならなくなります。
このような浄化あるいは再利用を強化する方法は高くつきすぎて、手をかけてもそれに見合うだけの効果はありません。
この問題を解決できないでいる間、クロフタの質問に工場スタッフはしだいに苛立ちを深めていました。
ついに工場長がクロフタを呼んでいます。
ほお髭を生やしたオーストリア人工場長は、約17年前、第一次世界大戦後に消滅したオーストリアーハンガリーニ重帝国の頃から、この工場を預かっていました。
お高くとまった、学歴の高い、昇進を約束された、余計な詮索をする、この若いスロヴェニア人技術者を、彼は信用していなかったのです。
「いったいどうしたんだね?」
工場長は詰問しました。
「水のことが頭から離れんのか?」
・・・クロフタは返事をしなかったのです。
工場長は万事もっと単純だった時代ならこれで決まりだと思われる言葉で迫りました。
「水はただなのを知らんのか?工場中で一銭も払わなくていいのは水だけだよ。
コストを下げたいというのなら、ただのものじゃなく、金を払ってるものについて心配したらどうだ」
・・・しかしクロフタはそれでも水にこだわりつづけたのでした。
それどころか、50年近くたっても、地球の裏側のマサチューセッツ州レノックスでクロフタはなおも水について心を砕いていたのです。
齢71歳にしてなお背筋のしゃんとした、ハンサムでヨーロッパ風に垢抜けした男でした。